8月31日の米国債利回りは10年4.75%、30年5.25%と長端に高止まり。ダウは0.70%安も月間では上昇。トランプ大統領は20%成長論を示し、インフレ高止まりでもFRBは利上げ不要と主張。G20財務相会合が開幕し、政治的压力と長期金利の綱引きが続く。円安・外債フロー・日本株のバリュエーションに波及しうる。

内容詳細

8月31日の米国市場では、ダウ工業株30種が前営業日比0.70%安の53,185.9で引けた。一方でCNBCは、主要指数が月間では上昇して8月を終えたと伝えており、月末の利益確定と月次リターンの押し上げが併存した格好だ。米財務省が同日公表した利回りは、2年債4.34%、5年債4.49%、10年債4.75%、30年債5.25%と、長端に高止まりの色が濃い。10年と2年のスプレッドは41bp(4.75-4.34)で、逆イールドは解消しているが、タームプレミアムの上昇が長期金利を押し上げている可能性がある。10年債と30年債の利回り差は50bpとカーブの傾きは急であり、長めの年限ほど上昇圧力が強い。

政策面では、トランプ大統領が米成長率は20%に達し得るとの見方を示し、インフレ率が2%目標を上回る中でもFRBは利上げで対応すべきではないと述べた、とCNBCは報じた。これは金融引き締めに対する政治的压力の強さを示唆する。また、ノースカロライナ州アシュビルでG20財務相会合が始まり、ベッセント財務長官とウォーシュ氏が成長重視の論調で臨んだとCNBCのライブブログにあるが、発言の詳細は本文未取得のためリンク先参照となる。ドル円は8月28日時点の東京市場で159.36円と、4日前の水準ながら円安傾向にあった。なお、S&P500は8月28日時点で7,711.76、NASDAQ総合は26,402.42と高値圏にあったが、直近は未確認である。また、CNBCによれば、インフレ高止まりが続けば2027年に住宅ローン金利は大幅に低下しない見通しとされ、長期金利の下値抵抗力の一因となっている。これらは、米金融政策を巡る不確実性が長期金利のリスクプレミアムとして残存していることを示している。

拡張考察

本レポートの起点は、8月31日に米財務省が公表したイールドカーブが2年4.34%、5年4.49%、10年4.75%、30年5.25%と長端優位の高止まりを示したこと、そしてトランプ大統領が20%成長論を掲げてFRBに利上げを求めない姿勢を改めて明確にしたことにある。ダウは0.70%安と調整したが、月間では上昇して8月を終えたため、リスク選好と金利上昇の同居が続いている。以下、3ペルソナへの含意、構造変化、見落とされがちな需給要因の順に論じる。

(a) ペルソナ別の具体的含意

ヘッジファンドアナリストにとっては、米金利の水準よりも、政治的压力が実質金利とインフレ期待のどちらに効くかの見極めが個別銘柄の選別に直結する。10年債4.75%に対し、実質金利の水準次第では高PERのグロース株は割引率上昇の影響を受けやすい。逆に、名目金利上昇がインフレ期待主導なら、価格転嫁力のある日本企業や資源関連の採算改善が進む。ドル円は8月28日時点で159.36円と円安水準にあり、輸出企業には追い風だが、輸入コスト増が内需企業のマージンを圧迫する。また、CNBCが決算失望の候補企業を挙げている点は、米金利上昇に伴う需要減速が業績モメンタムに波及する前兆として、日本株の米国エクスポージャーが高い銘柄では特に精査が必要になる。

円金利トレーダーにとっては、米2年4.34%と10年4.75%のスプレッド41bpが、JGBカーブのスティープ化圧力として作用しうる。日銀が国債買い入れの減額を進める中で、超長期ゾーンの需給悪化が米30年5.25%と連動して強まれば、20年債や30年債の利回り上昇が加速する可能性がある。クロスカレンシーベーシスは、ドル円が159円台と円安で推移する中、ドル調達コストの上昇とヘッジ付き外債投資の採算悪化を通じて、国内勢の外債投資の増勢を鈍らせるか、逆に為替ヘッジなしのフローを増やすかの分岐点になる。米国発の金利上昇が続けば、日銀はイールドカーブ全体の過度な上昇を抑えるため臨時の国債買い入れオペを打つ可能性もあり、オペ日程と米指標発表の重なりがボラティリティを高める。

日本株ストラテジストにとっては、海外投資家の資金フローが最大の変数になる。高水準の米金利は、ドル建てリターンを求める資金を米国債や米国株式に留める一方、円安による日本株の為替差益狙いのフローは根強い。8月28日時点のS&P500は7,711.76、NASDAQ総合は26,402.42と高値圏にあり、米株の調整が日本株のリスクオフ売りを誘発する経路も残る。トランプ政権のFRBへの圧力がインフレ期待を不安定化させれば、グローバルなリスクプレミアムが拡大し、日本株のバリュエーション再評価が一時的に停滞する可能性がある。その一方で、米国景気が20%成長という極端なシナリオを市場が部分的にでも織り込めば、世界需要の拡大期待が日本株の景気敏感セクターを押し上げる。

(b) 金利上昇の性格と拡張される潮流

10年と2年のスプレッドが41bpと正常化しているのは、2022年以降続いた逆イールドが完全に解消し、市場が景気後退よりも中長期の財政・インフレプレミアムを織り込んでいる状態と解釈できる。トランプ大統領の「成長率20%」という主張は、実現可能性が極めて低いとみられるものの、FRBの利上げ余地を政治的につぶす効果を持つ。インフレ率が2%目標を上回っているにもかかわらず利上げを否定する姿勢は、実質金利の上昇を抑制する一方、ブレークイーブンインフレ率の上昇を通じて名目長期金利を押し上げかねない。G20財務相会合でベッセント財務長官とウォーシュ氏が成長重視の論調を示したことの詳細は本文未取得だが、主要国が財政拡張と金融緩和的なスタンスを続けるなら、世界的に長期金利の下値が切り上がる可能性がある。また、CNBCによればベネズエラ原油取引はガソリン価格をすぐに押し下げないとされており、供給増によるディスインフレ要因は当面期待しにくい。WTI原油は8月25日時点で83.9ドルと高止まりしており、エネルギー価格がインフレ率を下支えする構図も続く。住宅ローン金利についても、インフレ高止まりが続けば2027年に大幅低下しないとの見通しが示されており、家計の金利負担が消費を抑制する経路と、長期金利の下値抵抗力の両面を持つ。

(c) ポジショニング・需給面で見落とされがちな論点

CTAやリスクパリティ戦略は、米長期金利のトレンドに追随するため、10年債利回りが4.75%を上抜ける局面では機械的な売りが加速する。オプション市場でも、10年債利回りのコールオプション(金利上昇方向)のガンマが高まれば、ディーラーは現物債を売ってヘッジするため、金利上昇が自己強化される。モーゲージ凸性も同様で、金利上昇がMBSのデュレーションを長期化させ、投資家のリスク削減売りを誘発する。一方、9月は季節的に株式が弱含みやすく、リスク回避が米国債買い・金利低下をもたらす逆方向の動きにも注意が必要だ。8月31日のダウ0.70%安は、月末リバランスの売りと月間上昇の利益確定が重なった可能性があり、月初のフロー次第でボラティリティが高まる。

日本市場固有の見落としとしては、ドル円が159円台で推移する中、財務省・日銀による円買い介入の閾値が意識されやすい点がある。介入が実施された場合、ドル円の急反転が輸出企業の為替前提を揺るがすだけでなく、介入資金の円売り・ドル買いの巻き戻しが短期金利やJGBに波及する。また、クロスカレンシーベーシスの急変は、外債投資をヘッジ付きで行う生保・年金の投資判断を変え、国内債券と株式の資金配分に影響を与える。さらに、米長期金利の上昇が続くと、日本のGPIFなどが外債比率を引き上げる動きが強まり、国内債券市場の需給緩和につながる可能性もある。加えて、米国債の供給増が長期金利の上昇要因として意識される中、日本の投資家が外債投資を増やす際の為替ヘッジ比率の低下が、クロスカレンシーベーシスの拡大とドル円の上昇圧力を同時にもたらす可能性がある。これらの二次波及は表層のニュースでは語られにくいが、ポジションが偏っているほど調整時の値幅が大きくなるため、キャッチアップが必要だ。