FRBは政策金利を据え置き、インフレ指標の下方修正で追加利上げ圧力が緩和する一方、イラン情勢緊迫化で原油が急騰。米長期金利は19年ぶり高水準で推移し、ドル円は高止まり。日本では熊本地震への日銀金融措置が発表され、地政学リスクと政策対応が交錯。投資家はインフレ再燃リスクと景気減速の綱引きを強いられる状況だ。

内容詳細

7月28日の米株式市場は、ダウが前営業日比+1.03%と上昇したものの、S&P500は+0.21%、ナスダック総合は-0.22%とまちまち。主力ハイテクの決算に対する反応に格差が目立った。メタは6%超の下落。AI投資拡大にもかかわらず売上高見通しが嫌気された(Financial Times)。マイクロソフトはインテリジェントクラウド部門の収益が32%増の393億ドルとなるなど好調(Financial Times)、一方クアルコムはメモリ価格上昇が響き純利益が25%減少した(Financial Times)。

FRBはインフレ高進への懸念がくすぶる中でも金利を据え置き、米国債利回りは7月29日時点で10年物4.67%、2年物4.22%(Financial Times)。加えて米商務省経済分析局(BEA)がインフレ指標の算出方法を変更する方針で、FRBが重視するPCEデフレータが下方修正される可能性が報じられた(Financial Times)。制度変更による見かけ上のインフレ鈍化が利上げ圧力を和らげる面はあるが、実体経済の物価動向を覆い隠すリスクも孕む。

地政学面では、トランプ米大統領がイランへの軍事的報復を示唆したことを受け原油価格が急騰(Financial Times)。米国の石油在庫は「危険なほど低い」水準に落ち込み、アジア・欧州市場への供給不安が強まっている(Financial Times)。WTI原油先物は7月27日時点で1バレル84.25ドルだが、以降の上昇でエネルギーコスト高が世界経済の重石となる公算が大きい。ドル円は同27日の東京市場で中心相場163.65円と高水準を維持しているが、その後の地政学リスクと金利動向を反映した値動きは未確認。

日本では、7月29日に日銀が令和8年熊本地震に対する金融上の措置を公表した(日本銀行)。本稿執筆時点で本文は未取得だが、被災地金融機関への資金繰り支援などが中心とみられる。

拡張考察

■ 3ペルソナへの含意

【日本株ヘッジファンド・アナリスト】

ハイテク決算への反応格差は、日本株のセクター・銘柄選択に直結する。メタの大幅下落は、AI投資の収益化に対する市場の疑念を示唆し、アドバンテストやレーザーテックなど半導体関連株の選別を促す。一方、マイクロソフトのクラウド堅調は、クラウドシフト恩恵を受ける日本企業(さくらインターネットやデータセンター関連)の下支え要因となるが、クアルコム減益はスマホ需要減退・メモリ価格上昇によるスプレッド悪化を示し、村田製作所や太陽誘電などの部品メーカーには逆風。原油急騰はエネルギー・商社株(INPEX、三菱商事など)に追い風となる半面、電力・ガス、空運(ANA, JAL)にはコスト増と需要減のダブルパンチが懸念される。熊本地震は、鹿島・大成建設などの建設株への思惑を喚起する一方、損保ジャパンなど保険株の重石に。ただし、日経平均は前日の米株まちまちで方向感を欠き、CTAなど短期筋の先物売買に振らされやすい地合いが続こう。

【円金利トレーダー】

FRBの据え置きとBEA指標変更は、短期的な米利上げ確率を低下させるものの、イラン情勢による原油高がインフレ期待を押し上げる構図だ。米10年債利回り4.67%は長期金利の高止まりを示し、日米金利差拡大を背景にドル円は底堅く推移しよう。ただし、地政学リスクの極端な高まりはリスクオフの円買いを誘うため、上値は限定的か。

日銀の熊本地震対応は、しばらくは国債買い入れの減額に動きにくいとの観測を強め、JGBイールドカーブのブルフラット化を後押しする。もっとも、復興需要に伴う国債増発観測が広がれば、超長期ゾーンのスティープ化圧力となる。為替スワップ市場では、原油輸入急増によるドル調達ニーズ拡大が、クロスカレンシーベーシスの拡大(ドル調達コスト上昇)につながる可能性に留意。特に月末越えの短期ベーシスが荒れやすく、機動的なポジション管理が求められる。

【日本株ストラテジスト】

グローバルマクロは、金融政策面ではFRBが動きにくい中での原油高という、典型的なスタグフレーションリスクの構図を呈している。米国株はハイテクの業績格差が調整を複雑化させており、S&P500が高値圏でもみ合う中で日本株への波及は限定的だが、外国人の売り越しが続けばTOPIXの上値は重い。

日本経済は、円安が輸出企業の業績下支えとなるが、150円台後半の為替水準は原材料コスト高による内需企業の採算悪化も無視できず、二極化が鮮明に。地震による一時的な景気下押しに対し、日銀が緩和的なスタンスを維持することは、株式市場にとってはポジティブだが、財政拡張への懸念が長期金利を押し上げれば銀行株にはプラス、不動産・高PERグロース株には逆風となる。

バリュエーション面では、TOPIXの予想PERが14倍台とS&P500(20倍超)に比べ割安だが、グローバル投資家のリスクセンチメントが悪化すれば、割安は買い材料になりにくい。むしろ、原油高が中国景気を経由してアジア需要全体を冷やすリスクもあり、新興国ウエイトの高い日本株には二重の逆風。当面は内需シフト、エネルギー関連、復興関連の物色が続こう。

■ 拡張考察:潮流とシナリオ

BEAのインフレ指標変更は、一種の「統計的リパッケージ」だ。市場がこれに過度に反応し、実体インフレを見誤るリスクがある。実際、過去にもCPI算出方法の変更で表面上のインフレ率が低下し、FRBが緩和に動きやすくなった経緯があるが、今回は原油高が進行しているだけに、この変更で「インフレ懸念後退」と誤認すれば、後々のサプライズを大きくする。したがって、市場参加者はBEA変更前後のPCEコアのブレークダウンを精査し、実態を見極める必要がある。とりわけ、帰属家賃や医療費の計算方式見直しが数値に与える影響を正確に測ることが、日本株へのセクター配分決定時にも重要な示唆を与えるだろう。

原油高の二次波及にも注意が必要。中東での軍事衝突がホルムズ海峡の封鎖寸前に至れば、原油価格はさらに跳ね上がる。日本の一次エネルギー供給の約9割を輸入に依存する現状では、短期的に経常収支が悪化し、円安圧力が増す可能性がある。ただし、過去の原油高局面では、当初円安進行後に、世界経済減速懸念からのリスク回避で円が買い戻される傾向があり、一本調子ではない。また、日本政府が戦略石油備蓄を放出すれば、一時的な需給緩和につながるが、規模・時期は未定。

■ 見落としがちな論点

第一に、CTAのポジション動向。足元のナスダック先物の下げは、トレンドフォロワーの売りシグナルを誘発し、日本株先物にも圧力をかけている可能性が高い。大阪取引所の日経225先物・ミニの建玉残高や海外勢の手口情報を追うことで、売りの持続性を判断できる。第二に、オプション市場のガンマ。S&P500が7,400台を維持すれば、ディーラーのヘッジが先物買いを誘い、下値が固まる可能性がある。反対に、中東リスクでVIXが急上昇すれば、プットの買いヘッジが値動きを増幅させる。日本株オプションでも同様の動きが想定され、イベントリスクが高い8月は特に注意。

第三に、日銀の地震対応が意外な形で金融市場に波及する可能性。公表資料の詳細が未確認だが、仮に日銀が被災地の地銀保有株ETFやJ-REITを直接買い入れるような異例の措置に踏み切れば、関連商品の需給が逼迫し、価格形成に歪みが生じ得る。過去の大震災時には、日銀がリスク性資産の購入枠を拡大した経緯があり、今後追加政策が打ち出されるかが注目される。第四に、季節性。8月は日本の機関投資家の夏期休暇(お盆)で市場参加者が減少し、薄商いの中で為替も株も思惑で大きく振れる時期。例年7月末の配当再投資の需給が一巡した後は、海外勢の売買も細りがちで、突発的な地政学イベントに対する耐性が低い。ポジションを落として機動性を高める運用が求められよう。

最後に、米国のインフレ指標変更に伴う日本の受動的影響も見過ごせない。BEAの変更がPCE統計に及ぼす下方バイアスの程度によっては、FRBがよりハト派に傾く可能性があるが、それはドル安・円高要因となり、現在のドル円高ポジションの解消を促す。同時に、米長期金利の低下は日本国債にも波及し、JGBの中期ゾーンの好需給につながるかもしれない。ここまで視野に入れたうえで、夏場のポジション構築を考えるべき局面だ。