7月の米財政赤字は2021年3月以来の高水準となり、10カ月累計は約1.8兆ドルで前年同期を上回った。8月12日時点の米国債利回りは10年4.68%、30年5.24%と長端に厚み。CPIは落ち着いたが、ホルムズ海峡の通航量減少とサウジの輸出経路変更が原油リスクを高め、政策据え置き長期化と財政プレミアムが焦点。

内容詳細

米国市場は8月11日、S&P500が前日比0.32%安の7,728.2、NASDAQ総合が0.60%安の26,445.45、ダウが0.34%安の53,791.85と主要指数は軟調だった。一方、WTI原油は1.21%高の84.77ドル。米財務省が8月12日に公表した利回りは2年4.20%、5年4.38%、10年4.68%、30年5.24%で、2年と10年のスプレッドは48bpとカーブはスティープ化している。

財政面では、CNBCによると、7月の単月赤字が2021年3月以来の高水準となり、2026会計年度10カ月累計で約1.8兆ドルと前年同期を上回った。赤字拡大は国債供給増を通じて長期金利を押し上げる構図で、30年債利回りが5.24%と高止まりする背景の一つとみられる。

インフレ指標では、CNBCが消費者物価の落ち着きを伝えたが、同日のS&P500実測終値は0.32%安であり、全面高にはなっていない。中東ではホルムズ海峡の船舶通航量が以前の日量130隻から約90%減少し、CNBCが伝えている。サウジアラビアは紅海攻撃を回避するため地中海側パイプライン経由の輸出を倍増させ、CNBCによればシディ・ケリール港からの輸出が倍増した。原油供給の経路変更は地政学プレミアムを原油価格に織り込む要因となる。ただし、ホルムズ通航量の詳細な絶対値は本文未取得のため原文参照。

ドル円は直近値が未確認で、8月7日時点の東京市場スポット中心相場158.56円が直近の実測値である。

拡張考察

① 三つの投資家像への含意

日本株対象ヘッジファンドのアナリストにとって、米国のタームプレミアム上昇と地政学リスクは、日本株のバリュエーション圧迫要因と業種間リターンの分散要因を同時に与える。米30年債利回り5.24%は世界の長期資本コストを押し上げ、グロース株の期待リターンに割高感をもたらす。一方、WTI原油84.77ドルへの上昇は、資源・商社や石油関連の収益改善期待を支える半面、化学・輸送などコスト増で圧迫される業種との差が拡大しやすい。また、米財政赤字の拡大はドル高・米金利高を通じた円安圧力となり、輸出企業の為替前提に再考を迫る。特に8月7日時点のドル円158.56円は既に高水準であり、さらに米金利が上振れる場合、ヘッジ付き外債投資の採算悪化から国内勢の資金フローにも影響が及ぶ。

円金利トレーダーにとって、米国債のスティープ化(2年4.20%に対し10年4.68%、30年5.24%)は、日本の超長期ゾーンの対米スプレッドとヘッジコストに直結する。米財政赤字による国債供給増は、日本の国債市場にも「タームプレミアムの復元」という論理で波及する可能性がある。日銀が国債買入れを減額する中で、日本の長期金利も米国と同様に供給要因で上昇圧力がかかりやすい。クロスカレンシーベーシスはドル調達コストに影響され、米長期金利の上昇局面では外銀の円転コスト拡大を通じて円金利の上振れ余地が意識される。また、ドル円の直近実測が8月7日時点で158.56円である点は、米金利上昇の円相場への伝播が通常より遅れている可能性を示唆するが、最新値が未確認のため、本日のスポットで158円台が維持されているかは確認が必要だ。

日本株ストラテジストにとって、米国のインフレ沈静化と財政赤字拡大の組み合わせは、政策金利が据え置かれる一方で長期金利が下がりにくい「フィスカル・ドミナンス」の芽を映す。もし市場がこの経路を織り込み始めれば、日本株には円安サポートと海外金利上昇による割高感の綱引きとなる。過去のパターンでは、米10年債利回りが4.5%を超えると日本株の海外投資家買いが細る傾向があるが、今回は円安が輸出採算をかさ上げし、EPSの上方修正につながる可能性があるため、単純な逆相関とはならない。むしろ、資源高と金融株優位のローテーションが日本でも続きやすい。

② 拡張される潮流

第一に、米国の財政赤字が2026会計年度10カ月で約1.8兆ドルという規模は、コロナ禍のような緊急支出が無いにもかかわらず拡大している点で構造的である。金利が高止まりするほど利払い費が増え、赤字が更に膨らむという悪循環が長期金利の底を切り上げる。第二に、ホルムズ海峡の通航量が約90%減少し、サウジが地中海経由の輸出を倍増させている事実は、原油の実輸送コストと保険料を恒常的に押し上げ、CPIの財・サービス価格に二次波及する。FRBはコアインフレ沈静化を確認しつつも、供給サイドのリスクを無視できず、利下げ再開のハードルが上がっているとみられる。第三に、長短スプレッドの48bpは歴史的にはなおフラット気味だが、30年5.24%という水準は年金・保険の超長期資金にとって魅力的な利回りとなり、米国債への需要を下支えしつつ、株式のリスクプレミアムを圧迫する。

③ 見落とされがちな論点

CTAやボラティリティ系戦略の観点では、米国株の実現ボラティリティが低下している一方、原油市場のテールリスクが高まっており、コモディティCTAの買いシグナルと債券ボラティリティの上昇が同時に発生する可能性がある。特にOPEC産油国の輸出経路変更は先物カーブのバックスワーデーションを強め、ロールイールドを狙う戦略の資金流入を促す。オプション市場では、S&P500のプットスキューが原油高と長期金利上昇の複合リスクを織り込む余地があり、VIX先物のタームストラクチャーがコンタンゴからバックワーデーションへ転じる場面では、日本株先物にもガンマの売り圧力が波及しやすい。

需給面では、米財務省の四半期定例入札(QRA)が近づく中で、10年・30年ゾーンの入札が消化不安を呼べば、タームプレミアムが更に拡大する。日本勢は対米証券投資のフローが円安局面で活発化しやすいが、為替ヘッジコストが高止まりする限り、生保の外債投資は為替ヘッジなしのオープン外債に偏り、ドル円の上昇圧力を増幅させる。制度変更では、日銀の国債買入れ減額が円金利の変動性を高めており、米金利上昇と相まってJGBイールドカーブのスティープ化圧力が強まる。シーズナリティでは、8月中旬は夏枯れで市場流動性が薄く、米雇用統計やCPIの結果が増幅されやすい。財政運営を巡る政治的不確実性も供給懸念を増幅させる。以上の複合経路を踏まえると、米国の金利動向は単なる金融政策の読み合いではなく、財政供給と地政学リスクを内包した構造的なタームプレミアムの再評価であり、日本の各市場にも円相場と超長期金利を通じて波及し続けるとみられる。